更年期世代の“隠れ睡眠負債”と、見逃されやすい無呼吸症候群
- ・“隠れ睡眠負債”とは何か
- ・春という季節が、眠りをゆらがせる理由
- ・熟眠障害の背景に潜む睡眠時無呼吸症候群
- ・女性に多い“見えにくい無呼吸”と更年期との関係
- ・三島先生の睡眠アドバイス
- ・世界睡眠デーをきっかけに、眠りを見直す
春は、眠りの質がゆらぎやすい季節です。「眠れているはずなのに朝の疲れが抜けない」「日中の眠気が以前より強い気がする」——そんな“説明のつかない疲労感”を感じる人も少なくありません。その背景には、気づかないうちに積み重なる“隠れ睡眠負債”が潜んでいる可能性があります。
3月13日(金)は「世界睡眠デー」。世界睡眠学会が制定した、眠りの重要性を見直す日です。この機会に、自分の睡眠を改めて振り返ってみませんか。みいクリニック代々木 院長の三島千明先生に、隠れ睡眠負債と、その背景に潜む睡眠時無呼吸症候群について伺いました。
“隠れ睡眠負債”とは何か
睡眠負債とは、本来「慢性的な睡眠不足の積み重ね」を指す言葉です。しかし近年注目されているのは、時間は足りているのに回復できていない状態です。眠っているつもりでも深い眠りが十分に確保されていなければ、脳や身体の修復は追いつきません。その結果、疲労は自覚しないまま少しずつ蓄積していきます。
春という季節が、眠りをゆらがせる理由
春は、身体にとって小さなストレスが重なりやすい時期です。朝晩と日中の寒暖差は自律神経の切り替えを忙しくさせます。本来であれば、夜になると副交感神経が優位になり、自然と眠りへ向かう流れが整います。しかし日中の緊張や温度変化が残っていると、その移行がスムーズにいかず、眠りは浅くなります。
「睡眠はスイッチでオン・オフできるものではありません。体温が下がり、自律神経が切り替わり、脳が“安心だ”と納得したときに訪れる“状態”です。春はその“安心の状態”がゆらぎやすい季節。さらに花粉症による鼻づまりは呼吸を不安定にし、睡眠中の酸素の取り込みを妨げることがあります。小さなゆらぎが重なったとき、眠りの質は確実に影響を受けます」(三島先生)
熟眠障害の背景に潜む睡眠時無呼吸症候群
「眠れているのに疲れる」という訴えは、量ではなく質の問題を示している可能性があります。「日中の強い眠気やいびきがある場合は、呼吸の問題も疑う必要があります」と三島先生は指摘します。その代表的な疾患が、睡眠時無呼吸症候群(OSA)です。

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に気道が狭くなり、呼吸が断続的に止まったり浅くなったりする状態を繰り返す病気です。呼吸が止まると血中の酸素が低下し、脳は一瞬だけ覚醒します。本人は眠っているつもりでも、脳は何度も目覚めている。この状態が続くことで、深い睡眠が保たれにくくなり、“隠れ睡眠負債”につながります。
「本人は眠っているつもりでも、呼吸が止まるたびに脳が数秒間だけ目覚める『微小覚醒』を繰り返しています。これが繰り返されると、睡眠の連続性が断たれ、脳の老廃物を除去する機能が阻害されます。無呼吸は単なるいびきの問題ではありません。慢性的に続けば、心血管疾患や代謝異常のリスクとも関係します」(三島先生)
睡眠時無呼吸症候群は決して珍しい病気ではありません。国内外の疫学研究では、成人の約10〜20%程度に何らかの睡眠時無呼吸がみられる可能性があると報告されています。軽症例を含めれば、気づかれないまま経過している人も少なくありません。
女性に多い“見えにくい無呼吸”と更年期との関係
睡眠時無呼吸症候群は男性に多いイメージがありますが、女性にも少なくありません。特に日本人は欧米人に比べて下顎が小さい骨格的特徴があり、肥満でなくても無呼吸になりやすい傾向があります。さらに閉経後は、上気道を支える女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)の低下により、発症リスクが急増します。
女性の場合、症状の現れ方が異なることがあります。いびきが目立たないタイプや、呼吸停止よりも浅い呼吸が繰り返されるタイプもあり、周囲も本人も異変に気づきにくい傾向があります。その結果、朝の頭痛や慢性的な疲労感、抑うつ気分、不安、不眠といった症状として現れることがあります。
「こうした症状は更年期の不調と重なりやすく、年齢のせいと片付けられやすいですが、睡眠時の呼吸状態の問題が隠れていることもあります」
更年期は、女性ホルモンが大きく変動する転換点です。とくにプロゲステロンには呼吸を促す作用があるとされ、その減少は気道の安定性に影響する可能性があります。さらに加齢に伴う筋力の低下や体重変化が重なることで、気道は狭くなりやすくなります。40代以降でいびきや日中の眠気、朝の頭痛が増えたと感じるなら、一度睡眠の質を見直してみる価値があります。
“眠れているか”ではなく、“回復できているか”。その視点が、これからの更年期世代の睡眠ケアには重要です。
三島先生の睡眠アドバイス
「まずは、自分の眠りを否定しないこと。睡眠は“整える”ものです。生活リズム、光、体温、呼吸を少しずつ整えていきましょう。それでも“眠れているのに疲れる”状態が2週間以上続く場合や、日中の眠気が生活に支障をきたしている場合は、一度専門医に相談してください。睡眠は自己流で抱え込むものではなく、必要であれば評価・治療できる医療領域です」

特に注意したいのが『寝酒』です。アルコールは喉の筋肉を弛緩させ、無呼吸を悪化させます。自己流の対処で悪循環に陥る前に、まずは内科、耳鼻科、循環器内科といった専門医へ相談してください。現在は自宅で指先にセンサーをつけるだけの簡易検査(アプノモニター)で、体への負担少なく診断が可能です。
世界睡眠デーをきっかけに、眠りを見直す
春は変化の季節。 3月13日の「世界睡眠デー」をきっかけに、自分の眠りを静かに振り返ってみてください。見えないまま積み重なる“隠れ睡眠負債”は、放っておくと将来の健康に影響する可能性があります。だからこそ、早めに気づき、整え、必要であれば医療につなげることが大切です。その小さな一歩が、これからの健やかな毎日を支える土台になります。
PROFILE
「みいクリニック代々木」
院長 三島 千明先生
日本プライマリ・ケア連合学会 家庭医療専門医。総合診療医。産業医。
西洋医学に加え、東洋医学的アプローチやライフスタイル指導を組み合わせた「都会型地域医療」を実践。クリニックでは小児から高齢の方まで幅広い世代のかかりつけ医としての都会型地域医療を行うほか、CBD専門外来を設け、睡眠の悩みなどへの活用法のアドバイスも行っている。
みいクリニック代々木






